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東京地方裁判所 昭和49年(借チ)5号 決定 1976年4月27日

申立人

株式会社丸京

右代表者

瀬川亮三郎

右代理人

市野沢角次

相手方

株式会社中村商店

右代表者

菊井安次郎

右代理人

森川清一

主文

申立人と相手方間の別紙目録記載の土地に対する賃貸借契約の目的を堅固の建物所有に、期間を本裁判確定の日から三〇年に、賃料を本裁判確定の月の翌月分から一カ月三、三平方メートル当り金一、五二〇円にそれぞれ変更する。

申立人は相手方に対し金一、六四九万円を支払え。

理由

(申立の要旨)

一、申立人は相手方から昭和三四年三月二八日別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を期間昭和七四年三月九日まで又は契約締結後の四〇年間、非堅固建物所有の目的で賃借し、同地上に同目録記載の建物(以下本件建物という)を所有している。

二、本件土地附近一帯は織物問屋街であるが、昭和二五年一一月二三日防火地域に指定され、建物の状況は、交通の便がよくなるに従い、年を逐うて木造よりビルに移行しつつあり、現在は殆んど中高層ビルが建ち並び、本件土地はビルに囲まれ、本件土地について現に借地権を設定する場合には、堅固建物の所有を目的とするのを相当とするに至つている。

三、申立人を営業の発展と拡張のため、本件土地を立体的、合理的に使用すべく、鉄筋コンクリート造五階建(総床面積八二五平方メートル)の堅固の建物を建築することを計画しているが、本件土地賃貸借契約の目的を堅固の建物所有に変更することについて、当事者間に協議が調わない。よつて申立人は、本件土地賃貸借契約の目的を堅固の建物所有に変更する旨の裁判を求める。

(当裁判所の判断)

一本件資料によると、申立の要旨記載のとおりの事実が認められるから、本件申立は認容すべきである。なお、申立人は後記財産上の給付額に関連して、本件賃貸借契約の目的は実質的には堅固の建物を所有するものであつて、従つて右給付額も実質的には増改築許可の申立の場合と同視すべきものであり、仮に然らずとするも、本件土地面積の二分の一に当る九四、四九平方メートルについてその実質的な目的は堅固の建物所有の目的であるから、右部分については、前同様右給付額は実質上増改築許可の申立の場合と同視すべきものである旨主張するけれども、本件資料によれば、本件賃貸借契約の目的は、本件土地全部につき、形式上たると実質上たるとを問わず、普通建物即ち非堅固建物所有の目的であることが認められるので、申立人の右主張は理由がない。

二鑑定委員会は、本件賃貸契約の目的を変更して、建物を堅固中高層化することにより、建物の容積(延面積)が増大し、本件土地の利用効率が増加し、その利用者である申立人は利益を得ること、建物を堅固化することにより借地権の存続期間がより長期化し、借地人である申立人は利益を得ること、これに反し、賃貸人は借地期間存続のより長期化により完全所有権回復の時期が延期されるという不利益を蒙むるから、利益の衡平を図る為、借地人たる申立人に財産上の給付を命ずるのを相当とし、その給付額は、借地条件変更前の土地利用から生ずる利得と借地条件変更後のそれから生ずる利得を秤量し、その各々の現在価格(現価)を比較し、後者の前者より上廻わる額(差額)を借地条件変更により借地人の享受する利益額とし、右利益額を基準とし、観察評価による建付価格上昇に基づく借地権価格上昇額、裁判例による対更地価格割合を参酌し、金一、六四九万円が相当である旨の意見書を提出した。

当裁判所も、本件申立を認容するに際し、当事者間の利益の衡平を図るために申立人に財産上の給付を命ずるのが相当であると考える。そして、右給付額は右鑑定意見書の意見に、従前の裁判例を参酌し、本件資料にあらわれた一切の事情を考慮し、右意見書による本件土地の更地価格一億六、四九八万八、〇〇〇円の一〇パーセントに当る一、六四九万円(一万円未満切捨)をもつて相当と判断する。

三また賃料額については、鑑定委員会の意見を採用し、本裁判確定の月の翌月分から一カ月3.3平方メートル当り、金一、五二〇円に改定することとする。なお、本件賃貸借契約の目的の変更に伴い、その存続期間を本裁判確定の日から三〇年に変更するのが相当である。

よつて主文のとおり決定する。

(中島恒)

<別紙目録省略>

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